SMAPの歌詞にも登場した有名商品も
私(山下メロ。平成文化研究家)は平成の文化を「平成レトロ」と呼んで研究しており、中でも現在と大きく文化が異なる平成の初期を専門的に扱っております。
そんな平成の初期、1994(平成6)年にアイドルグループのSMAPがリリースしたシングルが「がんばりましょう」。
この曲は、バブル崩壊の影響に沈む日本へのエールともとれる歌詞になっているのですが、そこに東京タワーで昔見かけた土産物のことが出てきます。
その土産物には、「努力」と「根性」という文字が書かれていた、と。
これは、まさにザ・昭和といった土産物です。
東京タワー(港区芝公園)は1958(昭和33)年に竣工した高さ333mの電波塔。
平成の中盤には新しいタワーの建設が検討され、2008(平成20)年には東京スカイツリー(墨田区押上)が着工しました。それにより東京タワーがなくなるのでは……と噂されていましたが杞憂に終わり、令和を迎えてもなお存続しています。
あえて昔の店構えのまま営業
平成のスカイツリー、昭和の東京タワー。
昭和時代へのノスタルジーを喚起させる映画『ALWAYS 三丁目の夕日』においても、建設中の東京タワーが象徴的に描かれていました。
私が子どもの頃に行った3階の蝋人形館はなくなってしまいましたが、2階には今も昭和の色を残す土産店がいくつも残っています。
土産店の店主に話を聞くと「新しい内装の土産店も増えて、昔からの土産店の売り場はどんどん少なくなっているけど、それでもあえて昔の店構えのまま営業している」とのこと。
しかし、このたび2020年9月22日(火)に、昭和の時代から続いた東京タワー内の土産店のひとつが閉店を迎えてしまいました。それが「イトーズギフトショップ」です。
有名な老舗土産物店が閉店
イトーズギフトショップは昭和40年代から営業している土産物店ですが、一部の好事家の間では、蛍光色のポーチやガイコツのキーホルダーなど、今では探してもなかなか見つからない懐かしい商品が安く買える店として大変有名でした。
私も、そういった商品が欲しくて何度も通っていたのです。
こんなお店は日本中探してもめったにありませんが、それは、おそらく趣味人が多く住む東京の中心地で、かつ地方からの観光客も多く立ち寄る観光スポット・東京タワーだからこそ、存在し得たのでしょう。
そして、客は国内からだけに限りません。多くの外国人観光客にも喜ばれるお店でした。
外国人観光客も喜ぶお土産を
東京タワーには日本に観光に来るインバウンドの人たちも多数訪れます。その外国人観光客たちにとって、昭和を感じられるこの土産店は「あのニッポンに来た」という感覚を味わわせてくれる場所なのでしょう。
土産店は皆、画一的で洗練された現代風の売店ばかりでは、面白くないという見解でした。
「自分が外国旅行をしたとき、現代風の売店は日本と変わらないこともあるので、むしろ町の雑貨屋さんを見るのが楽しい。だから同じように外国人観光客も、昭和の雰囲気が残る東京タワーの土産店を楽しんでいます。この雰囲気は、今では日本でも失われているので残していきたいです」
確かに、洗練されていくと、どの店も似たり寄ったりになるかもしれません。さらに昭和が遠くなるにつれて、当時はともすれば「似たり寄ったり」だった土産店も、昭和の色を残していることが今は個性になっているとも言えます。
時代遅れであることを恥ずかしがることもなく、むしろ個性と捉えているということに驚きました。
しかし、今回は新型コロナウイルスの影響を強く受けてしまったのです。
新型コロナ、五輪延期の影響で
2020年1月、中国からの渡航がなくなったことを皮切りに、海外からの観光客が減少し、観光業はいち早く影響を受けました。特にインバウンドの受け皿になっていた場所ほど打撃が大きく、東京タワーも例外ではありませんでした。
そして次に、緊急事態宣言に対しての閉館期間と、東京オリンピック延期による影響です。
都心にある観光スポットとしては、オリンピック需要に応えるよう準備をしなくてはなりませんでした。オリンピックのために発注した商品などの損害も発生しています。
そして、新型コロナウイルスの感染者数が多い東京が当初「Go Toトラベル」キャンペーンで除外となったため、地方の観光客が東京に来づらい状況もありました。
東京タワーといえば、「都民が行ったことのない観光スポット」として、よくネタにされる場所です。
だからこそ今、まずは都民によるマイクロツーリズムに期待したいのです。
貴重な店を存続させていくために
今回、老舗の土産店であるイトーズギフトショップが閉店ということで、最終日までの4連休に多数のファンが集まりました。
そして、一緒にずっと営業してきた周囲の店も、最後を盛り上げようとイトーズギフトショップを手伝っていました。
しかし、この盛り上がりが一過性では意味がありません。周囲の土産店は、時代遅れを個性として、武器として、昭和の雰囲気を守ろうとしています。
実は、昭和が色濃く残る東京タワー2階の土産店。
その雰囲気を味わいに、ぜひ東京タワーに足を運んでみてください。