「おいといください」という言葉をご存じでしょうか。耳にするのは初めてで、どこで区切れば良いかすら分からないといった方もいるかもしれません。
ひと口に表現するならば「おいといください」は、相手の健康を願うあいさつフレーズです。
目上の人に送るメールや手紙に書き添えると、好印象を与えられる可能性があります。今回は、「おいといください」の意味と使い方、言われた時の返し方などを解説します。
■「おいといください」とは?
「おいといください」とはどんな意味なのか、まずは辞書をチェックしてみましょう。
◇「おいといください」の意味
おいとい下さい
読み方:おいといください
いたわってください、大事にしてください、の意味。「どうぞお身体おいとい下さい」のように、相手の健康を祈る結びの挨拶などで用いる。「おいとい」は「厭う」の意味だが、嫌うという解釈とは異なる。出典:『実用日本語表現辞典』
「おいといください」は、一言でいえば「お体をお大事にしてください」という意味です。「厭う(いとう)」という動詞に、敬語表現にした補助動詞の「お~ください」を組み合わせています。
「厭う」と書くと「嫌う」「嫌がる」といったイメージが強く、何となくマイナスの意味に捉えてしまうかもしれません。しかし、実際のところは違った意味があることが辞書を見ると分かります。
いと・う〔いとふ〕【×厭う】
1 嫌って避ける。嫌がる。「団体行動を―・う」「どんな苦労も―・わない」
2 かばう。大事にする。いたわる。現代では多く健康についていう。「おからだをお―・いください」
「元より惣八、門之進を―・ひけるより」〈浮・懐硯・二〉
3 (多く「世をいとう」の形で)世俗を嫌って離れる。出家する。
「世の憂きにつけて―・ふは」〈源・夕霧〉
4 危険や障害などを避ける。しのぐ。
「霜雪の寒苦を―・ふに心なし」〈笈の小文〉出典:(『デジタル大辞泉』小学館)
「厭う」には1の「嫌って避ける」といった他に、2のように「大事にする」「いたわる」といった意味があることが分かりました。
1と2は対極の意味を持つようにも思えますが、1の使われ方として「苦労を厭わない」と打消しの表現も一般的です。あながち後ろ向きの言葉とも言いきれないでしょう。
◇「おいといください」の正しい表記
「おいといください」とひらがなで書くのも、「お厭いください」と漢字で書くのも、どちらも正解です。
しかし、「厭う」は読みにくい上、「厭う=嫌う」といったネガティブなイメージを持つ人もいるため、ひらがな表記の方が伝わりやすいと言えます。また、心配りのフレーズであることから、響きの柔らかさを優先しましょう。
▶次のページでは、「おいといください」の使い方を例文と共にご紹介します。
■「おいといください」の使い方
「おいといください」は響きの柔らかな言葉で、ビジネスメールや季節の手紙、挨拶状などに適した表現です。
「厭う」には健康を願う意味があることから、体とセットで「お体おいといください」のように使います。
具体的な使い方を、例文でチェックしてみましょう。
◇例文
・「寒い日が続きますが、体調を崩したりなさいませんよう、お体おいといください」
・「日ごとに寒さがつのってまいりますが、どうぞお体おいといください」
・「またお会いできる日まで、どうぞお体おいといくださいませ」
・「残暑厳しき折、くれぐれもお体おいといくださいませ」
・「お疲れが出ないように、くれぐれもお体をおいといください」
「おいといください」そのままでも使い方としては十分ですが、状況に合わせて「お疲れが出ませんよう」や「くれぐれも」といった言葉も付け加えてみてください。
特に目上の人には、「上品な人だな」と好印象にうつるかもしれません。
▶次のページでは、「おいといください」の類語・言い換え表現を紹介します。
■「おいといください」の類語・言い換え表現
目上の人には好印象につながる可能性のある「おいといください」ですが、状況によっては他の言葉に言い換えた方が伝わりやすいかもしれません。
そこで次に、「おいといください」の代わりに使える類語・言い換え表現をご紹介します。併せて覚えておくと表現の幅が広がるでしょう。
◇(1)「ご自愛ください」
「おいといください」と同じく、健康を気遣うフレーズに「ご自愛ください」があります。これは、読んで字のごとく「ご自身を大切にしてください」という意味を持ち、ビジネスメールなどで使用するという方が多いでしょう。
「おいといください」よりも、パッと見て意味が分かりやすいかもしれません。
ただし、「おいといください」のように「お体」とセットで用いることは好まれない点には注意が必要。「ご自愛ください」には、元より身体という意味が含まれるため、同じ意味を重ねていることになってしまうのです。
「おいといください」と混乱しないように気をつけてくださいね。
参考記事はこちら▼ 「ご自愛ください」の意味と使い方。目上の人にも使える?正しい使い方「ご自愛」について正しい意味や使い方、使う上での注意点を解説します。
◇(2)「お労りください」
「労る」には「大切にする」という意味を含むため、相手の健康や体調を気遣う表現として使うことができます。
主にお見舞いのメールや手紙など、お互いが健康状態を把握している状況で使うのが一般的です。例えば、多忙な相手や疲れていそうな相手を気遣う表現として適しています。
ちなみに、「ご自愛」のように身体を指す意味は含まれていないため、「お体をお労りください」と表現しましょう。
◇(3)お体にお気をつけください
相手の体調を気遣う、特にシンプルな表現です。「ご自愛ください」や他の言い回しに自信がなければ、これを使っておけば間違いないでしょう。
また、冬場の体調を崩しやすい時期などには「寒い日が続きますがお体に気をつけてお過ごしください」のようにアレンジを加えるのもおすすめです。
参考記事はこちら▼ 「お体に気をつけて」は正しい敬語? 意味や使い方を解説語彙解説が得意なライターの律さんが、「お体に気をつけて」の意味と使い方を解説します。
参考記事はこちら▼ 「寒い日が続きますがお体に気をつけてお過ごしください」とは? 使い方を解説「寒い日が続きますがお体に気をつけてお過ごしください」の意味や使い方を例文と共に解説します。
▶次のページでは、「おいといください」と言われた時の返し方を紹介します。
■「おいといください」と言われた時の返し方
自分が逆に「おいといください」と言われる立場になった時、どのように返事をするのがベストでしょうか。
せっかくの心遣いを台無しにしないために、「おいといください」と言われた時の返事の仕方も覚えておきましょう。
◇(1)お礼の言葉を伝える
「お体おいといください」と言われた時は、まずはお礼を述べることが大切です。
相手の気遣いに対し、「ありがとうございます」「感謝いたします」といった言葉を添えましょう。
◇(2)相手の体調も気遣う
さらに返事の締めには、相手の健康を願い「○○様もおいといください」と加えてみてください。
感謝の言葉にプラスして相手の体調も気遣うことで、良好な関係を築きましょう。
◇(3)できる範囲で状況報告をする
自分が体調を崩している中で「おいといください」と言われたシーンでは「お心遣いに感謝いたします。だいぶ体調が良くなってきましたので、なるべく早く復帰したいと考えています」のように伝えてみましょう。
こちらの前向きな気持ちを伝えられると共に、相手に安堵感を与えられるはず。
□「おいといください」は相手の健康を気遣う言葉
相手の健康を願っていることを柔らかなニュアンスで伝えられる「おいといください」。外来語が広まる以前よりある大和言葉で、目上の人へのあいさつフレーズに適しています。
シーンによっては、「お労りください」などの言葉に言い換えられるとさらに吉です。もし相手から声をかけられることがあれば、感謝の言葉と状況報告を添えて返答しましょう。
(にほんご倶楽部)
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