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柴田勝家の初陣@秋葉原のメイド喫茶

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柴田勝家の初陣@秋葉原のメイド喫茶

柴田勝家の初陣@秋葉原のメイド喫茶

柴田勝家、戦国メイドカフェで征夷大将軍になる

呼び名が「柴田勝家」になった理由

 平成26年(2014年)、まだワシが普通の柴田勝家だった頃の話。

 そもそも一般人の柴田勝家がいるのかという話だが、これがいたのである。今でこそ、この名前をペンネームにして作家をやっているが、もとを正せば大学時代のあだ名なのだ。紆余曲折あって高校生活を6年間ほど送り(端的に言うとサボりすぎて単位が足りなかった)、大学生になったのが2010年、当時は22歳だったが、いかんせん武将のようなヒゲを生やした風体で特異に見られることこの上なし。

 これに加えて、同級生たちとUNOで遊んでいる際に負けがこんで「まるで賤ヶ岳しずがたけだな」と口走ってしまった。聞き慣れない合戦場の名を説明している内に、晴れて柴田勝家と呼ばれるようになったのだ。その後、文芸部に入ってペンネームを決める段になり、すでにあだ名があるのに名前を増やすのも不便だったので柴田勝家とした。つまり、ペンネームとして使うよりも先にワシは柴田勝家だったのである。

 そんな文芸部で過ごした大学生活。さらに民俗学者を目指して大学院に進んだのを機に、文芸部生活の記念受験のような感じでハヤカワSFコンテストに原稿を送りつけた。あと就活したくなかった。ただ本気で作家になれるとも思っておらず、ペンネームを変えることもせずに柴田勝家のまま送った。その後の経緯は色々とあるが、ワシは今も柴田勝家を名乗っている。これは全く人生の不思議である。

 といった訳で、小説をコンテストに送って満足していたのが2014年の夏である。自由気ままな大学生活の最後の輝きは、所属する文芸部の部室で浪費することにしていた。その無駄っぷりはワシ一人のためにつけられた部室の電灯および冷房と完全に同期している。ワシはもうOBのような存在で、部長職も後輩に譲り、来る必要もないのに部室に顔を出しては時間を潰していた。

 そんな夏のある日。

「勝家パイセン、メイド喫茶、行きたくないスか?」

 部室に顔を出すなり、文芸部の後輩のカエサル(あだ名)がそんなことを言ってきた。この男、新入生の頃より楽しいことだけを追い求める生粋の遊び人であり、振る舞いもローマ皇帝かくやという強権ぶり。まさに陽中の陽、文芸部にいる方が珍しいタイプの人材だ。というか、同じ部活に柴田勝家とカエサルってあだ名のヤツがいるのやばいからな。

「メイド喫茶だァ?」

「カカーッ(笑い声) そうッスよ! 行きたくないスか?」

 こちとらオタクである。電車男以前からの秋葉原の住人である。そういう自負がある。しかし、メイド喫茶にだけは行ったことがなかった。一人で行くのが怖かったのである。

「フフ、ワシを誰だと思ってるんだ?」

 メイド喫茶に行く、そのチャンスだった。

「余裕だぜ。行くぞ」

苦い初体験から得た教訓

 翌週、カエサルは自らが選抜した軍団長を引き連れ、秋葉原への侵攻を開始した。休日の秋葉原は薄曇りだった。

「カカーッ! ヤバいッスね! 女の子いっぱいじゃないスか!」

 ワシはカエサルのコミュ力を頼りに、ヤツはワシの秋葉原知識を頼りにメイド喫茶を探していく。最初に足を向けたのは外神田一丁目、ツクモやあきばお~、コトブキヤの店舗が並ぶ路地、今ではメイド通りと称される呼び込みの激戦区だ。

「はしゃぐな、カエサル。初心者だと見抜かれる」

 浮かれポンチの大学生グループだと思われたくなかった。秋葉原の玄人感を出しておきたかった。というか、明らかにワシだけ引率の教授みたいな風貌であった。

「お、君どこの店? 行く行く!」

 しかし、カエサルのコミュ力は抑えきれない。チラシを配っているメイドさんに恐れずに話しかけ、そのまま店に直行することが決まった。これがワシにとっては最初のメイド喫茶になるのだが、なんら感慨もなく決まってしまった。

「やべぇ! オレ、緊張してきた!」

 総勢五人もの軍団長を引き連れた皇帝の言葉である。メイドさんに案内され、秋葉原の街を歩いていく。まるでメイド喫茶とは結びつかない無骨な雑居ビルへと入り、小さなエレベーターに乗る。人数が多いので二回に分けるほど。

 店内に入ればファンシーな部屋。隣のビルの背は低く、窓から陽光がたっぷりと差し込んでいる。レースカーテンで仕切られた空間には無数のぬいぐるみが置かれ、真っ白なソファが5脚ほど横並びで、まるで女の子の部屋に入ったかのような印象を受ける。

「うちは料理もオススメなんですよ~」

 ふかふかのソファに座る六人の大学生。客はワシらだけだが、店内は広くなく、それだけでほぼ満員になっていた。メイドさんは丁寧な説明をしてくれたし、カエサルはじめ全員が盛り上がった。

「あ、でも今日はキッチンの人が少ないから、料理が遅くなっちゃうかも」

 そんなアドバイスがあったが聞いていなかった。浮かれたワシらはせっかくのメイド喫茶だから、何か料理を頼もうとした。定番のオムライス、二個くらい頼んで皆で分ければいい、そう思った。だが違った。場の空気は盛り上がりすぎていた。

「せっかくだから、全員で別の料理食べたくね?」

 今だからこそわかる。キッチンの人が少ない小規模店舗で一度に六人が別の料理を頼むとどうなるか……。

「かしこまり、ました~」

 途端に店の奥でバタバタと人が行き交う音が聞こえ始めた。もとより少ないメイドさんが総動員で料理を始めていた。調理を担当できる人は決まっているから、あとはとにかく全力で料理を手伝っているらしい。

「メイド喫茶ってこんな感じなんスねぇ!」

「まぁ、王道って感じかな?」

「やっぱ勝家パイセンは詳しいッスね!」

「当然だろ?」

 嘘である。

 この男、メイド喫茶を知っている風を装っているが、実際に覚えているのは2005年前後にテレビ番組でやっていたアキバ王選手権で見た光景だけである。一応、秋葉原で過ごす中で風のうわさには聞いているが、実際に中に入ったのは初めてであった。

「それにしても料理、来ないっスね」

 入店から40分ほど経過してからの言葉である。最初にメイドさんから「一時間ごとにチャージがかかる」と説明されており、ワシらは一時間で退店することにしていた。料理を待つ間、メイドさんがこちらに来ることもなく、いつもの部室と全く同じような光景が繰り広げられていた。

「おまたせしました!」

 そしてメイドさんがオムライスの他、五品もの料理を運んできてくれた。しかし退店時間まで残り5分となった。料理は自慢する通りに美味しかった。もっとゆっくり食べたかったが仕方ない。悪いのは完全にこちらである。

 そして3分で料理を食べ、残り1分で注文していたチェキを撮り、ほんの数秒だけ楽しく喋り、早々に会計を済ませて店を出ることにした。最後まで丁寧に対応してくれたメイドさんには頭が下がる。

「カエサル……」

 こうして、ワシのメイド喫茶デビューが終わった。良い思い出ではあるが、苦い経験もした。これは初恋と良く似ている。

「次は飯を食ってから行こう」

 かくして得た教訓は一つ。小規模店舗で数人が一度に別々の料理を頼むと大変なことになる、だ。

 これがワシの初めてのメイド喫茶体験だったが、ここで諦める気はなかった。

 その後、ワシは後の常駐することになる戦国メイド喫茶に辿り着くのだが、それはまた次回の話としよう。

(つづく)

 連載第3回は12/9(木)公開予定です。

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