西武バスが一部の路線バス車両に、「ユーグレナバイオディーゼル燃料」の使用を開始しました。ユーグレナはミドリムシのこと。従来の軽油とほぼ同等の品質・パワーで、排出CO2を10%削減するそうです。
ライオンズの選手寮で食用油回収 バスの燃料に
西武バスが2020年9月7日(月)から、東京および埼玉を走る一部の路線バス車両をラッピングしたうえで、「ユーグレナバイオディーゼル燃料」を使用しています。その車両が9月17日(水)に報道陣へお披露目されました。
「ユーグレナ」は微細藻類「ミドリムシ」の学名であり、このミドリムシを沖縄・石垣島の工場で製造する企業(ユーグレナ社)の名前でもあります。59種類もの栄養素を持つミドリムシを活用した食品や化粧品などをユーグレナは販売していますが、そのかたわら、同社はミドリムシを飛行機や車両の燃料にする研究を行ってきました。
バイオディーゼル燃料とは、家庭などから排出された天ぷら油などを精製し、軽油に混ぜた燃料のこと。地域のリサイクル推進にもつながるエコな取り組みの一環として、一部のバスや鉄道のディーゼルカーなどで使われています。
しかし、食物由来の油を混ぜられる割合は、軽油に対し5%が限界でした。それ以上混ぜると、機器に悪影響を及ぼすからです。燃焼が悪くなることによるパワー不足のほか、糖分による機器類のベトつきなども聞かれ、課題も少なくありません。
ユーグレナバイオディーゼル燃料を使用する西武バスのラッピング車と、ユーグレナの出雲 充社長(2020年9月16日、中島洋平撮影)。
一方、ミドリムシを配合したユーグレナバイオディーゼル燃料は、軽油に対し10%混ぜることができるといいます。ユーグレナの出雲 充社長によると、軽油とほぼ同等の品質を確保でき、実際に運行している西武バスも、軽油と比べて違和感はないと話します。
また、燃料の10%を石油由来でないものに置き換えることで、CO2(二酸化炭素)排出量も10%削減できるというわけです。
「ハイブリッドバスの導入など環境負荷を低減する取り組みを進めてきましたが、バスをすべてそのような車両に置き換えることは困難です。ユーグレナさんの燃料はバイオディーゼルのなかでも安心して、特段の設備投資もなくそのまま使うことができ、CO2も抑えられます」(西武バス 渡邊一洋社長)
今回は西武グループ全体における、持続可能な社会の実現に向けた取り組みの一環。埼玉西武ライオンズの選手寮である若獅子寮でも、バイオディーゼルの燃料にするため使用済み食用油を回収していくそうです。
陸・海・空すべての移動体に! 課題は供給量
ユーグレナバイオディーゼル燃料は、これまで川崎鶴見臨港バスやジェイアールバス関東が導入していますが、東京都および埼玉県を走るバスでは西武バスが初めてです。そして9月からは、ミドリムシの生産地である石垣島に拠点を置く八重山観光フェリーにおいても、フェリーの燃料として使用が始まりました。
同燃料の開発には、いすゞ自動車やANAも関わっており、飛行機を含めた陸・海・空すべての移動体への使用が想定されています。これを使いたいという事業者からの要請も多いものの、いまは横浜市のプラントで年100tという供給量。「全然足りていない」(ユーグレナ 出雲社長)といいます。また、価格は1リットルあたり約1万円ということです。
ユーグレナバイオディーゼル燃料を採用した八重山観光フェリー(画像:ユーグレナ)。
ユーグレナは、この供給量を2025年までに2000倍の年20万tまで増やし、本格的な商用ベースに移行したい構え。価格も5年のあいだに常識的な水準まで安くしたいといいます。
「日本は2030年までに排出CO2を(2013年比で)26%削減するという目標を掲げており、事業者にはプレッシャーがかかっています。一方でEV(電気自動車)やFCV(燃料電池自動車)といった新エネルギー車への全面的な置き換えは難しく、既存の燃料のクルマも必要です。バイオディーゼル10%の燃料を普及させ、『こうすれば目標をクリアできる』と示していきます」(ユーグレナ 出雲社長)
ちなみに、ミドリムシの活用によって従来のバイオディーゼル燃料よりも品質を向上させ、配合量も増やすことができるのは、良質なオイルを生成するというミドリムシの特徴、そしてプラントでの精製過程に秘密があるそうです。