なかなか先の見えない、新型コロナウイルスの感染拡大と終息。休校やサラリーマンの在宅勤務、不要不急の外出の自粛など日々の生活への影響がどんどん広がっています。
そんなコロナウイルスの脅威は健康面のみならず、夫婦のメンタル面にも大きな影響を及ぼしているようです。プチげんかや大げんか、無視、そして離婚を考え始めた夫婦まで、いろいろな話を聞いています。
家族と1週間顔を突き合わせるストレス
【「コロナのストレスで体調を崩しています」 美香子さん(仮名、40歳)】
学校が長期の休校にもかかわらず、外に遊びにも行けないため、小学1年生と4年生、中学1年生の息子3人は欲求不満でイライラ。ゲームをしながらしょっちゅう小競り合いをし、突き飛ばされてけがをしたり誰かが泣かされたり、まさに動物園のような騒がしさです。
さらに3月半ばから、夫は会社の指示で毎日在宅勤務。ダイニングテーブルを占領してパソコンや書類を広げているので、美香子さんと子どもたちは昼食も取れません。仕方がないので、リビングの床にレジャーシートを敷き、そこに座ってランチとおやつタイムを過ごします。
上の子たちはインターネット学習に取り組んでいますが、パソコンの操作が分からないとまず、「父さーん」と呼び、そして夫が「これからウェブ会議で忙しいから、母さんに聞け」となって結局、美香子さんが教えることになるのがパターン化しています。
夫の方も慣れない在宅勤務でイライラして、子どもたちが騒ぐたびに「うるさい! こっちは仕事中なんだぞ」とキレモード。そして家族がずっと家にいるため、美香子さんは毎日3食用意しなければならず、一日中キッチンに立っています。3度の水仕事で手はガサガサ。ハンドクリームを塗りながら「誰かご飯作ってよ…」とぼやいています。
家族全員がマンションの中で1週間、ずっと顔を突き合わせているうちに、美香子さんもストレスで目まいがするようになってきました。手だけでなく、顔や首の肌荒れも出て、これもストレスを助長させています。
「ツルツルの肌に戻りたい。これって“コロナストレス”ですよね。更年期障害というにはちょっと早いし。たまには1人の場所と時間が欲しいです。1人で缶コーヒーを飲もうと思って公園に出掛けようとするんですが、必ず下の子がついてくるし。子どもをどちらが見るかで夫と言い合いになることが増えています」とため息をついています。
「会話レス」から「夫婦の共同作業」へ
【「自粛のおかげで、夫婦の会話レスに気付きました。もちろんスキンシップも全くなし」 奈央さん(仮名、29歳)】
共働きで同い年の奈央さん夫妻は、2人とも旅行が大好き。月に1回は温泉旅行、年に3回は海外旅行に出掛けています。しかし、今回のコロナウイルスの影響で、申し込んでいた海外ツアーは全てキャンセル。一気に出掛ける予定がなくなってしまいました。それだけで意気消沈なのに、その後の自粛生活でまたも気持ちが落ちています。
「2人ともテレワークです。2人の家ごもりで気付いたのが、旅行の話以外の話題が夫婦の間にないことなんです」と奈央さんは言います。
「今までは『次はどこに行こうか』『旅の準備で何を持っていこうか』『新しい情報誌を一緒に買いに行こう』なんて、いつも旅行関連の話をしていたのですが、旅の話題がなくなると、一緒にご飯を食べていても会話が途切れてしまうんです。
長期の旅行だけでなく、土日のお出掛けも自粛しているので一日中、家の中でそれぞれが黙ってスマホかタブレットをいじっているだけ。コロナについては話しますが、その話題は余計に暗くなります。
私たち夫婦って、本当に会話がないんだなって改めて分かりました。夜の営みも、旅行のときには旅先のホテルであったけど、家では全くなくなっています。まあ、人と接触してはいけないってニュースでも言っているから、それはいいのかな」
会話が少ないことに気付いたのは夫婦にとって前進です。この反省をきっかけに、最近は料理動画を見ながら2人で一緒に料理を作るなど、「夫婦の共同作業」の時間を意識してつくり、静まり返った時間が流れないように工夫をしているそうです。
家にいるからこそ、過去の旅のアルバムなどを見て思い出話をするのもアリなのですが、それをやると「行きたい衝動」が盛り上がるから悲しくなるのだそう。人それぞれです。
そして、コロナ騒動で気持ちが落ち込み、セックスレスになる夫婦は確かにいるかもしれません。セックスレス改善の専門家としては“その逆”に期待しています。
潔癖症で自己中な夫と“コロナ離婚”?
【「このままだと“コロナ離婚”になりそう」 沙耶さん(仮名、32歳)】
潔癖症で神経質な夫と、大ざっぱで楽天的な沙耶さんは対照的な性格です。
「以前から、私が掃除機をかけた後、彼が『まだホコリが残っているよ』と言いながら、フローリング用ワイパーを持ってついてくるようなことがよくありました。でも、最近のコロナウイルス騒ぎ以降、彼の潔癖症はますますエスカレートしてきたんです」
沙耶さんによれば、夫の帰宅後のルーティンは、まず5分ほどかけて念入りに洗顔と手洗い、うがいをし、さらに消毒用アルコールで手指の仕上げをします。その次は使い捨て手袋をして、家の中を除菌ティッシュペーパーで拭くのです。
ドアノブや引き出しの取っ手、階段の手すり、ダイニングテーブルと椅子、革張りソファの表面、テレビのリモコンやスマホ、トイレのふたや便座、風呂の洗面器やシャンプーのボトルなど、ありとあらゆる「俺が触りそうなところ」を除菌するのだそうです。
アルコールも除菌ティッシュペーパーも、お店で品切れしているので大事に使ってほしいと、沙耶さんはそのたびに怒っています。結局、薬局で消耗品を買うために並ぶのは、沙耶さんだからです。そのときも「○○(子ども)を見ているから、自転車で行ってきてよ」としれっと言います。
「不愉快なのは、家の中がまるで汚染されているかのような態度をとることと、除菌が“自分のためだけ”であることなんです。ジコチュー極まりない。2歳の子どものおもちゃは、『お前が洗面所で洗ってやれ』と言って拭こうとしない。家族の感染には無関心で、自分の心配だけをしていることが目につくようになりました」と沙耶さん。
さらに、「子どもはあちこち触って菌だらけだから不潔」と言い放ち、子どもが自分の方に近づいてくると「ママのところに行きなさい」と嫌がる態度をとるのだそうです。
「新型コロナ問題で彼の本性がよく分かりました。子どもや私まで遠ざけようとする汚い本性。もともと子どもが苦手っていうのは分かっていたけど、私の希望でつくりました。でも、ここまでひどいとは」
沙耶さんはニュースで流れる惨状に、「大変だね、かわいそうだね」と寄り添う言葉を発しますが、夫は「自己責任」と切り捨てます。
「こんなに情が薄い人と知っていたら結婚しなかった。私の見る目がありませんでした。何で結婚したんだろう。いい会社に勤めていて、ルックスがよかったから…プロポーズの言葉がかっこよかったから…ジコチューの傲慢(ごうまん)な態度、あの頃は隠していたんです。私がばかでした。
結婚してまだ2年。やり直すなら今。早く気付いてよかったです。私も正社員で働いているので、1人で子どもを育ててやる。コロナが終息したら、私たち夫婦も収束すると思います。離婚協議の際に『精神的な苦痛を受けた』とアピールできるように、今は隠れて細かく彼の言動を録音しています」
「妻力」と「夫力」が問われるとき
いざというときに見えてくるのが、相手の本性と真実の関係性です。
弱さもわがままも含めて愛し合うのが夫婦です。それが「こんな人だと今気付いた」となり、嫌悪に変化するのであれば、時間をかけて見直してもいいでしょう。
沙耶さんの場合は、「私がばかだった」と反省もしています。今後もパートナーが傲慢な態度に気付かず、“俺さまファースト”を貫くのなら、離婚を視野に動いても仕方ありません。海外では、外出禁止期間中にDVの通報が増えたという報道もあります。
ただ、もし相手に柔軟な姿勢が見え始めたら、もう一度考えてください。非常事態なので、パートナーも気持ちがささくれ立っているのかもしれません。今は時間がたっぷりあるので、夫婦関係を見つめ直すにはいい時期です。
各家庭で、小さな夫婦げんかが勃発していると思われます。コロナウイルスで夫婦関係が変化したのではなく、コロナウイルスにまつわる恐怖と不安によって、意識下にあった“自己中心性”が表に出てきたともいえます。夫婦だから甘えてもいい、というシンプルな気持ちです。
非日常によって亀裂ができる夫婦。逆により親密になる夫婦。どちらに転ぶか、まさに「妻力」と「夫力」が問われるときです。
「恋人・夫婦仲相談所」所長 三松真由美