いつでも「閉店セール」のお店に問題は?
街角で時々目にする「閉店セール」の文字。閉店に伴う在庫処分や売りつくしを理由に、通常よりも大幅に値下げされた値札を見かけると、購買欲をかき立てられてしまいます。しかし、中には年中、閉店セールをうたって営業を継続している店も見受けられますが、こうした“いつでも閉店セール”のお店に法的問題はないのでしょうか。
オトナンサー編集部では、弁護士の牧野和夫さんに聞きました。
景品表示法違反の可能性
牧野さんによると、「閉店」や「改装」を理由にセールを行うこと自体にはもちろん、問題はありませんが、あたかも閉店をするかのように装い、「今だけ安い」「今買うとお得」と長期間アピールして大量の客足を呼び込んだ場合は、景品表示法(正式には「不当景品類及び不当表示防止法」)違反となる可能性があります。
ただし、閉店セールを実施したことでお店の業績が回復し、その後も経営を続けることができたというケースも。
たとえば、大きく報道された大阪の靴店の事例です。同店は1993年ごろ、不況で経営が危うくなり「もうあかん やめます!」という垂れ幕を店に設置したところ、キャッチフレーズの面白さが話題となって客足が復活。その後も「いや、やっぱりやります!どっちやねんセール」などのユニークな垂れ幕を続け、2016年2月に閉店するまで、客も閉店しないことを承知で商品を買う状況ができました。
「この場合、顧客側はただちに閉店しない前提で購入していると考えられ、『有利誤認』に該当する可能性は低いでしょう。ただし、これは極めて例外的事例であり、違法である名ばかりの『閉店セール』には要注意です」(牧野さん)
なお「閉店セール」といいつつ、通常価格で商品を売っている場合は、一般的に「閉店までの一定期間だけ、特別に安くなっている」との認識を消費者に与えることから、不当表示のうちの有利誤認にあたる可能性があります。
「だまされた」…どう対処すべきか?
それでは「閉店セール」のうたい文句につられて商品を購入したものの、お店がその後も閉店せず、「だまされた」という思いを抱いた人はどうすべきでしょうか。
牧野さんによると、仮にお店が景品表示法に違反しても、監督官庁が業者を行政上規制するだけであり、同法は消費者が救済を受けるための具体的な法的権利を定めた法律ではありません。
そこで、刑事上の救済ですが、刑法上の詐欺罪(10年以下の懲役)が成立するためには、詐欺によって財産上不法な利益を得ることが必要です。「閉店セール」の看板につられて商品を相場価格、または相場よりも安い価格で購入した場合、お店は財産上不法な利益を得ていないため、詐欺にあたる可能性は低くなります。一方で、割高で購入した場合は、財産上不法な利益を得たとは一応言えますが、「閉店セール」の看板と、商品を割高で買うことの因果関係を証明することは困難です。
次に、民事上の救済ですが、「閉店セール」のうたい文句だけでは、明確にだます意図があったとは言えないため、民法上の詐欺にはあたりません。消費者は、「閉店セール」といって店舗へ立ち寄ることはあっても、それまで購入する気のなかった商品を購入する気になることは通常ないからです。
ただし「消費者契約法により契約を取り消せる可能性はあります。同法では、消費者が『誤認』した場合、消費者に契約の取消権を認めており、閉店商法は誤認にあたる可能性があるからです。たとえば、単に『閉店セール』と掲げるだけでは『誤認させた』とまでは言えませんが、閉店セールだから絶対に市価より安いなどと勧誘すれば、『誤認させた場合』に該当しうるでしょう」。
(オトナンサー編集部)